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青森地方裁判所 昭和61年(行ウ)3号 判決 1987年8月18日

青森市新町一丁目九番二六号

原告

有限会社武田開発商社

右代表者代表取締役

武田政治

右訴訟代理認弁護士

尾崎陞

清宮国義

青森市本町一丁目六番五号

被告

青森税務署長

石田誠一

右指定代理人

佐藤孝明

佐々木運悦

飯塚実

福士貫蔵

佐藤四郎

佐々木邦二

津島豊

高橋静栄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和六〇年三月四日付けでした昭和五七年五月一日から昭和五八年四月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)以後の青色申告の承認を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分とこれに対する不服申立て

(一) 原告は、昭和四二年六月一七日の設立以来法人税の確定申告について被告から青色申告の承認を受けていた者であるが、被告は、昭和六〇年三月四日付けで、原告が本件事業年度に係る法人税の確定申告書をその提出期限までに提出しなかつたのは、法人税法一二七条一項四号に該当するとして、本件処分をした。

(二) 原告は、昭和六〇年五月二日、本件処分に対して異議申立てをしたが、同年六月一一日付けで異議申立て棄却の決定を受けたので、同年七月二五日、仙台国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、昭和六一年二月二八日付けで審査請求を棄却する旨の裁決を受けた。

2  本件処分の違法事由

(一) 青色申告の承認は、大蔵省令で定めるところに従つて備え付けられた帳簿書類に基づいて申告が正確にされることを前提としているから、そもそも、備付けの帳簿書類によつて所得の内容を検討するまでもなく所得の有無、内容が被告に確認できるような場合には、確定申告書を所定の期限までに提出しなかつたとしても、法人税法一二七条一項四号を適用して青色申告の承認を取り消すことはできないというべきである。

(二) そして、本件事業年度については、被告は、次のような事情から原告が営業活動をせず、これによる所得がなかつたことを熟知していたから、原告の確定申告書不提出を理由とする本件処分は違法である。

(1) 原告は、昭和四八年一月五日、中野英喜(以下「中野」という。)との間で中野所有の土地を五億九一〇〇万円で買い受ける旨の契約を締結し、同日手付金五〇六〇万円、同月二六日内金一〇〇〇万円、同年三月一五日残金三億円の合計三億六〇六〇万円を支払つたが、その後中野に債務不履行があつたため、昭和四九年八月二八日、右契約を解除し、同年一〇月七日、青森地方裁判所に対し中野を被告として右支払代金三億六〇六〇万円の返還及び債務不履行による損害賠償金一億二〇九〇万円並びにこれらに対する同年八月二九日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払を求める訴えを提起した。

(2) 国は、原告に対する昭和五〇年度の法人税二億二二二九万円の租税債権に基づき、昭和五一年三月三一日、原告の中野に対する右請求権のうち三億六〇六〇万円の代金返還請求権を差し押さえ、昭和五一年七月一九日、中野に対し右金員等の支払を求めて右訴訟に独立当事者参加をした。

(3) 青森地方裁判所は、右訴訟について、昭和五三年四月二五日、国の請求を認容し、「中野は国に対し三億六〇六〇万円及びこれに対する昭和五一年四月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え」との判決をした。

(4) 中野は、右判決を不服として仙台高等裁判所に控訴したが、昭和五五年三月四日、和解が成立し、中野が原告に対し、和解金として金三〇〇〇万円を支払うこと、前記差押えに係る代金返還金三億六〇六〇万円及びこれに対する昭和五一年四月一日以降の利息は、中野から直接国に支払うこと等が定められた。

ところが、右和解により中野から原告に支払われることになった和解金三〇〇〇万円についても、青森県から差し押さえられたため、原告はその取立権を失つた。

(5) 原告は、資本金二〇〇〇万円の宅地建物取引業等を営む会社であるが、その全資金を中野に対する前記土地売買の代金の支払に投入し、これが中野の債務不履行により凍結したため営業活動を休止しなければならなくなり、社運のすべてを右訴訟の進行にかけることになったが、被告は、右事実を原告から提出された昭和五一年度ないし昭和五六年度の確定申告書に添付された決算報告書により熟知していた。なお、被告の調査担当職員は、昭和五九年九月原告の帳簿を調査し、本件事業年度において原告が営業活動をせず、これによる所得がなかったことを知っていたことを付言する。

3  よって、原告は、被告に対し、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、原告が本件事業年度の確定申告書を提出しなかつたこと及び(1)ないし(4)の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

三  被告の主張

1  法人税の確定申告について

法人税の確定申告書は、営業活動又は所得の有無、あるいは備付けの帳簿によつて所得の内容を検討する必要があるかどうかにかかわらず、必ず提出を要するものであることは法人税法七四条一項の規定に照らして明らかである。

法人税法七四条一項では内国法人に確定申告書の提出を義務付けているが、この趣旨は以下のとおりである。

法人税の確定申告書はこれを税務署長に提出することによつて、当該申告法人の「所得の金額又は欠損金額」及び法人税額を確定することとされている。

この確定申告を行うに当たっては、法人が確定した決算すなわち、株主総会又は総社員の承認(商法二八三条)を受けた決算に従つて計算したいわゆる企業会計上の利益又は損失の額をそのまま課税標準として申告するのではなく、当該確定した決算額を基に法人税法の規定に従って修正(申告調整)をした上で計算した「所得の金額又は欠損金額」の課税標準を算出し、税務署長に対し申告をしなければならないこととされている(確定決算原則)。

つまり企業会計によつて計算した利益の額又は損失の額と法人税法上の課税標準とは、両者の収益と費用についての性格及び計上時期の認識の相違、さらには租税政策上の措置等から必ずしも一致しない。

(法人税額等の損金不算入の規定(法人税法三八条)、寄付金の損金不算入の規定(同法三七条)及び交際費等の損金不算入の規定(租税特別措置法六二条)等)。

例えば、企業会計による決算額が赤字の欠損金額となつていても、法人税法上の課税標準は、右の法人税法の損金不算入の規定等により黒字の所得金額となる場合があり、また逆に企業会計による決算額に利益が生じたとしても、申告調整の結果、法人税法上の課税標準は欠損金額となる場合があることから、このような両者の差異を申告書において表明し、修正の上、法人税法に定める課税標準を計算し、当該申告法人の「所得金額又は欠損金額」及び法人税額を確定することが必要となるのである。

また、課税標準の計算又は税額の計算において法人に有利な計算の選択を認めている場合には、税務計算の明瞭性を確保するためにその計算内容等を確定申告書に記載することを条件としていることが多く、そのうちには確定申告書に記載された金額のみがその計算として取り扱われる場合もある。

(受取配当等の益金不算入の規定(法人税法二三条)、貸倒引当金の損金算入の規定(同法五二条)及び賞与引当金の損金算入の規定(同法五四条))。

以上のことから明らかなように、法人税法上の課税標準及び税額を確定させるためには、確定した決算に基づく企業会計の計算と税務計算が相違する部分に係る申告調整事項及び課税標準の計算において有利な計算の選択を認める場合の税務計算の内容を確定申告書上で明らかにし、当該法人の納税義務の存否、範囲を確認する必要がある。

しかも、右税務計算は当該事業年度分以前の課税標準等が当該事業年度分の課税標準等に影響を与えるのみならず、当該事業年度分の課税標準等の計算が翌事業年度分以降の課税標準等の計算にも影響を及ぼすものであることから、継続して各事業年度分の税務計算を明らかにしておく必要があり、もし仮に、欠損期の確定申告についてこれを不要とするならば、欠損期以降における各事業年度分の税務計算において著しい困難を招くことは容易に予想されるところであつて、各事業年度分の税務計算の継続によつて初めて法人税法上の課税標準や税額の確定が可能となるのである。法人税法が法人の確定申告につき、当該事業年度の課税標準等の有無にかかわらず、いかなる場合も確定申告を要求する理由は、かかる法人税の税務計算上の必要性に基づくものである。

2  青色申告制度について

申告納税制度は、そもそも自己の所得金額及び税額を自ら正確に計算し、申告納税する制度であり、納税者が帳簿書類を備え付け、取引を正確に記載することがその基盤をなしているが、青色申告制度はなお一層これを推進するために設けられた制度である。

すなわち、青色申告書提出の承認を受けた者は、所定の帳簿を備え付け、これに取引を正確に記帳することが義務付けられる反面、課税標準の計算に関し、各種の準備金等の法定額の限度での計上(租税特別措置法五四条ないし五七条の七等)、減価償却額の特別償却(同法四三条ないし四六条の二等)、欠損金の繰戻しによる還付請求(法人税法八一条)、前五事業年度以内の繰越欠損金の損金算入(同法五七条)等を付与されると同時に、税務署長は帳簿書類を調査し、その調査によつて課税標準又は欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合に限り更正をすることができる(同法一三〇条一項)こととして、いわゆる推計課税を禁止し、更正通知書には更正の理由付記が要求される(同法一三〇条二項)等手続上の特典をも与えられているが、その趣旨とするところは、これらの実体上及び手続上の特典を、誠実かつ信頼性のある記帳に基づき所得金額を正しく計算して確定申告をした者に対してのみ付与するとすることによって、申告納税制度の基盤を充実させようとするものにほかならないのである。

したがって、青色申告制度とは、<1>誠実かつ信頼性のある記帳をし、<2>それに基づき所得金額を正しく計算し、<3>確定申告手続を履行した者に対して、初めてその特典を付与する制度であるということができる

法人税法一二七条一項は青色申告書の承認の取消しについて規定しているが、右青色申告の承認の取消処分は、要するに青色申告の承認に伴う種々の特典を付与するに敵さない不誠実な法人からその特典をはく奪する処分である。

青色申告者に付与されている種々の特典は白色申告者のそれよりも多大であることは論ずるまでもないところであり、現に租税負担の軽減を受けている青色申告者と白色申告者との間において、租税負担の不平等が存することになるにもかかわらず、なお、青色申告制度を採用するに至ったのは、申告納税制度の基盤の充実という、より高度の政策的要請を租税負担の不平等に優先させた結果にほかならない。

したがつて、法人税法が青色申告の承認を受けた納税義務者に当然に期待している事項、すなわち正確な記帳やそれに基づく確定申告手続の履践を行わない者に対しては、青色申告制度下の特典を付与する実質的理由はないことになるから、その特典をはく奪することとしたのである。

そして、法人税法上、確定申告の継続は当該法人の当該事業年度における正しい課税標準や税額を確定するために必要不可決な要件であり、かつ、法人税確定申告制度を存続、維持する上での当然の前提条件というべきものであるから、法人税の確定申告制度の根源に反する確定申告手続の不履行者に対して、青色申告制度下の特典をはく奪することは当然のことといわねばならない。

3  本件処分の適法性

原告は、要するに、法人が営業活動をせず、これによる所得がないため備付けの帳簿によつて所得の内容を検討する必要がない場合には確定申告書を法定期限内に提出しなかつたとしても、青色申告の承認の取消し事由には該当しない旨主張するが、右主張は法人税法における確定申告及び青色申告の承認制度を誤解した独自の見解というほかはなく、主張自体失当である。

原告の主張は、青色申告制度上の義務に違背しながら、なおかつ、その特典のみを亨受しようとする身勝手な主張であつて、到底容認されるべきではない。

原告は営業活動を休止した昭和五一事業年度分(昭和五一年五月一日から昭和五二年四月三〇日間)から昭和五六事業年度分(昭和五六年五月一日から昭和五七年四月三〇日間)までの各事業年度分の課税標準が欠損金額である旨の確定申告書を提出していたにもかかわらず、五七事業年度(本件事業年度)分及び五八事業年度分の法人税の確定申告書を提出しなかつたのであるから、被告が法人一二七条一項四号の規定に基づき本件処分をしたことに何ら違法はない。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事業並びに同2の事実中、原告が本件事業年度の確定申告書を提出しなかつたことは、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件処分の適法性について判断する。

本件処分は、原告が本件事業年度に係る法人税の確定申告書をその提出期限までに提出しなかつたことが法人税法一二七条一項四号に該当するとしてされたものであるところ、原告の右行為が形式上同号に該当することは明らかである。

これについては原告は、原告が本件事業年度に営業をせず所得がなかつたこと及び被告が右事実を熟知していたことを理由として、このような場合には同条による青色申告の承認の取消しは許されないと主張する。

しかしながら、同法七四条一項は、「内国法人は、各事業年度終了の日に翌日から二月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づく次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない」と規定し、内国法人に対し確定申告書の提出を義務づけ、その違反者に対しては罰則をもつて臨む一方(同法一六〇条)一方、災害その他やむを得ない理由により決算が確定しないなどの事由がある場合には、申請に基づき、税務署長が期日を指定してその提出期限を延長することができる旨を定めているのであつて(同法七五条、七五条の二)、これらの規定によれば、青色申告書提出の承認を受けた内国法人は、所得の有無を問わず、また営業中であると休業中であるとを問わず、確定申告書の提出が義務づけられ、やむを得ない理由により決算が確定しないなどの事由がある場合に、その提出期限の延長が認められるにすぎないものであり、原告主張の事由によつては、確定申告書の提出義務が免除されないことは明らかである。

なお、青色申告制度は、正確な記帳に基づき誠実な申告がなされることを制度の前提としているものであるから、誠実な申告がなされないことを青色申告の承認の取消しの要件とする同法一二七条の規定が合理性を有することはいうまでもない。

他方、成立に争いがない乙七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、営業活動休止後の事業年度である昭和五一年度から昭和五六年度までは確定申告書を提出していたこと、本件事業年度についても残高試算表を作成したこと、本件事業年度に係る確定申告書の提出について提出期限の延長の申請をしなかったこと、が認められるが、右事実によれば、原告は、本件事業年度について決算が確定したにもかかわらず、正当な理由がないのに、確定申告書をその提出期限までに提出しなかったものというべきである。

してみると、原告の行為が法人税法一二七条一項四号に該当するとしてされた本件処分は適法であるといわなければならないから、原告の主張は理由がないものというほかはない。

三  よって、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口忍 裁判官 高柳輝雄 裁判官 荒木弘之)

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